いつもカタツムリを描く小三の男の子がいる。
 たしか去年の今ごろもカタツムリの粘土細工をたくさん作っていた。
 テーマのある子はほかにもいて、鳥、天使、愛犬やウサギ、独自のキャラクター等々。それは進化し続け、見事な作品に成長してゆく。
 「いつもこればかり描いて」と心配顔のお母さんには、「いいんですよ。心が落ちつくから描きたいんですよ」と話している。
 デッサンからとか、何かを写生してとかを決めてしまうと、少し苦痛になるから、まず自分の絵の中に気もちを入れて満足するまで描き上げることが先決だ。
 カタツムリの少年には今、よく耳にする症候群の診断が下されていて時々、学校のクラスに入れなくなるらしかった。
 私も一応資料や本を調べてはみたが、現代、あんまり多種多様な症候群があって、なんだか全(すべ)ての人々に、何かしら当てはまるようにさえ思えた。
 周囲に大きな迷惑をかけなければ、それぞれのペースで力いっぱい生きてゆけばいい。私にも人並みにできないことは山ほどある。あれもこれもと欲を出し、習い事にしばりつけ、少しのことで人と比べるよりも、自分の考えで創作のテーマを決められる子どもの方がとてもステキだ。
 カタツムリと自分を重ねるわけでもないだろうが、彼はアトリエでゆっくりと制作に没頭する。
 (急ぐことはないよ、ガンバレ、ガンバレ)と私は心でエールを送る。
 先日、ふと広げた新聞記事の片隅に彼の名前を見つけた。
 今年の夏の花火デザインコンクールの入賞者のところだった。
 学校で応募したらしく、「おめでとう」の電話をかけると、「ありがとう」と静かな声。「ひょっとしてカタツムリのデザインでしょ?」と問いかけると、少し間があって、「ハイッ」と大きな声。
 私は電話の向こうで彼の気もちが三十センチほど浮かんだのがわかった。